秋桜歳時記・俳句季語集・新年

時候

一月(いちがつ)【正月】
   
一月の音もしづかに宮噴井      橋本 対楠     
   
あたゝかき正月なれば麦踏まん    北里 信子
去年今年(こぞことし)【年去り年来る】
   
去年今年貫く棒の如きもの      高浜 虚子
   つま恋ひのつまの日月去年今年    遠入 たつみ
新年(しんねん)【年の始 新玉の年 新歳 年頭 年改る 年立つ 初年 年迎ふ 年明く 春 
明の春 御代の春 今朝の春】
   
家二三国旗掲げて浦の春       松田 八洲丸
   炉の母に年移りゆく榾をつぐ     倉田 紘文
元日(がんじつ)
   元日は大吹雪とや潔し        高野 素十
   元日にはじまる布施の暮しかな    山口 笙堂
元朝(がんちょう)【元旦 歳旦】
   
元朝の一献阿弥陀如来にも      尼子 凡女
   
元旦の真たゞ中にわれひとり     川村 千英  
二日(ふつか)
   あたゝかき昨日につづく二日かな   土永 竜仙子
   二日はやあふるゝ客の我が家の炉   穴井 梨影女
三日(みっか)
   二日より三日の客の多かりし     芦川 巣洲
   三日はや海女ほゝかむりして通る   谷口 三居
三ヶ日(さんがにち)
   一ト浦の海苔舟つなぎ三ヶ日     田北 ぎどう
   炉を焚いて百姓らしき三ヶ日     古川 あつし
松の内(まつのうち)【注連の内 松七日
   松の内過ぎたる里のひっそりと    加来 都
   平凡に雪にこもりて松の内      川田 政尾

松過(まつすぎ)【松明 注連明】
   
松過ぎの泊船へ漕ぐ遊女かな     矢津 羨魚
   松過ぎし父亡き部屋の広々と     上野 静作

天文

初明り(はつあかり)【初夜明】
   
虚子の句の飯野山より初明り     浜川 穂仙
   湖のひろがりてゆく初明り      佐藤 梧林
初日(はつひ)【初日の出 初旭 初日影 初日山】
   
初日待つ浦の短かき波止に佇ち    松田 八洲丸
   幸せにつゞくこの道初日の出     岩本 千代
初空(はつぞら)【初御空 初茜 初東雲】
   
広びろとして初御空あるばかり    船倉 双山
   舞ひ上る風船赤き初み空       内田 愛子
初凪(はつなぎ)
   初凪の二つの島へ渡し舟       青山 冬至
   初凪のふる里に母待ちくれし     中井 文子
御降(おさがり)
   御降にヨナの混りて暗かりし     坂口 かぶん
   御降りの音のゆたかになりにけり   的場 清子

地理

初景色(はつげしき)
   ふる里の三つの橋の初景色      後藤 良子
初富士(はつふじ)
   初富士の美しく旅恙なく       河合 甲南
   南へ肩ゆるやかに初比叡       村尾 梅風

人事

若水(わかみず)【若井 初水 一番水 若水桶】
   
若水のあふるる杓の小さかり     久垣 三代
初手水(はつちょうず)
   一杓をふくみて甘し初手水      白崎 きよし
白朮詣(おけらまいり)一月一日・京都八坂神社【白朮祭 白朮火 削掛 火縄売 吉兆縄】
   
二つある白朮燈籠と云ふを見し    小松 虹路
初詣(はつもうで)【初社 初庭 初祓】
   
初詣町の真中の大鳥居        河原 比佐於
   足伸ばし岬の宮へ初詣        小島 雅夫
恵方詣(えほうまいり)【恵方 年神 歳徳神 恵方棚 豊年棚】
   
我向ふ方を恵方と信じ行く      澤村 芳翠
   枯桑のいつもの道を恵方とし     倉田 紘文
七福神詣(しちふくじんまいり)【七福詣 福神詣 福詣】
   
三囲を抜けて福神詣かな       高浜 虚子
延寿祭(えんじゅさい)一月一日・大和橿原神宮【延寿盃 延寿箸】
屠蘇(とそ)【屠蘇酒 屠蘇祝う 屠蘇散 屠蘇袋 屠蘇延命散】
   
金粉の沈める屠蘇を干しにけり    滝戸 蓮
   屠蘇酌んでここに一人の太郎冠者   池谷 陶魚
歯固(はがため)
   歯固や送りくれたるするめいか    杉浦 東雲
初芝居(はつしばい)【初春狂言 春芝居 初曾我 ニの替】
   
道すがら半衿を買ふ初芝居      並松 玉哉
出初(でぞめ)【出初式 初出 消防出初 梯子乗 出初鐘】
   
嶺よりも高く放水出初式       日隈 昌乃
   火の山に向けて放水出初式      長田 八重
七種(ななくさ)【七草打つ 若菜摘む 薺打つ 薺売 若菜迎え 叩き菜】
   
七種のはじめの芹ぞめでたけれ    高野 素十
   七種を母の如くにたゝきけれ     平山 愛子
七種粥(ななくさがゆ)【薺粥 七日粥】
   
みほとけに七種粥の灯を上ぐる    中川 みさえ
   七種のどれも濃みどり粥の中     上田 芳子
鷽替(うそがえ)一月七日・太宰府天満宮 一月二十五日・東京亀戸天満宮
   
鷽替て幸せくると信じをり      徳重 敏乃
   鷽替の掌をふれ合ひしよりの仲    竹内 一芝
小松引(こまつびき)【子の日の遊 初子の日】
   
なつかしき寒さに小松引き遊ぶ    加藤 羝羊子
初寅(はつとら)【初寅詣 ニの寅 三の寅 福寅 福蜈蚣 畚下し】
   
初寅の屋根の宮まで火のつゞく    磯崎 緑
初卯(はつう)【初卯詣 卯槌 卯杖 卯の札 ニの卯 三の卯】
初薬師(はつやくし)一月八日・各地の薬師堂
   
願ひごとあれば参らむ初薬師     大賀 賢子
   いづこなる水の声々初不動      玉置 仙蒋
初金毘羅(はつこんぴら)【初金刀比羅 初十日】
   
汗ばみて初金毘羅の段登る      三谷 美子
十日戎(とおかえびす)【初恵美須 宵戎 福笹 残り福 吉兆 戎笹】
   
歩きつゝ空暮れてゐし初恵美須    宮崎 すみ子
   前をゆく人の福笹顔にくる      山田 静雄
宝恵駕(ほえかご)一月十日・大阪今宮戎神社【戎籠 福助駕】
   
宝恵駕の一番駕の鯛は大       堀 みのる
初場所(はつばしょ)【一月場所 正月場所】
   
初場所やテレビ桟敷を買ひ切りに   梁川 たけし
土竜打(もぐらうち)【土竜追 うろこもち打 土竜送り】
   
二の丸といふ古き町土竜打      紙田 幻草
綱曳(つなひき)【綱引 縄引】
注連貰(しめもらい)
   リヤカーで運び来るなり注連貰    丸山 ひろあき
左義長(さぎちょう)【どんど とんど 吉書揚 飾焚く どんど正月 どんど場】
   
左義長の大きな埃海へ飛び      吉川 きわえ
   火柱のつらぬく闇やどんど燃ゆ    長谷川 耕畝
小豆粥(あずきがゆ)【十五日粥 望の粥 赤小豆粥 粥柱】
   
明日死ぬる命めでたし小豆粥     高浜 虚子
   神棚に忘れしままの小豆粥      杉千 代志
成人の日(せいじんのひ)【成人式 成人祭】
   
成人の日に後れゐし宮の梅      太田 喜堂
   孫の買ふ成人の日の宝くじ      河野 ヨネ
薮入(やぶいり)【養父入 里下り 宿下り 宿入り 家父入り 十六日遊び】
   
薮入の戻りてよりの牛の世話     杉 艸子
   薮入に生れておりし仔牛かな     穴井 研石
初大師(はつだいし)【初弘法】
   
降る雪の中の香煙初大師       今川 青風
   投餅の道まで飛んで初大師      稗田 時子
初天神(はつてんじん)【天神花 天神旗 残り天神 宵天神】
   
我も又初天神の人となり       工藤 隆子
   末社にも初天神の人等かな      青山 友枝
初みくじ(はつみくじ)
   初みくじ大吉とあり信じ度し     澤 草蝶
乗初(のりぞめ)【初乗 初電車 初汽車 初渡舟 初車 初飛行 橇乗初】
   
初旅や母を看とりの汽車に乗る    藤間 蘭汀
   一と人車みな工学士初入坑      香月 梅邨
破魔弓(はまゆみ)【はま矢】
   
吊橋を人帰り来る破魔矢手に     田島 魚十
   金よりも銀美しき破魔矢かな     串上 青蓑
年賀(ねんが)【年始 年礼 年の礼 廻礼 初礼】
   
這ひ這ひの曾孫年賀の一の客     吉田 ひで
   夫の靴そろへ年始の客となり     牧山 美佐子
御慶(ぎょけい)【礼者 名刺受 礼受 礼帳 年賀客 賀客 門礼】
   
花時計めぐりて御慶申上ぐ      山本 幸代
   炭塵によごれしまゝの御慶かな    森山 抱石
年玉(としだま)【お年玉】
   
明けましておめでたく出るお年玉   軸丸 光義
賀状(がじょう)【年賀状 年始状】
   
淡窓の日田の人より賀状来し     後藤 栄生
   二三枚賀状の人の記憶なく      小山 二虹
初便(はつだより)【年賀状 年賀郵便 年賀端書 賀状配達】
   
差入れの聖書に挟み初便       山内 傾一路
   北国の友の手漉に初便        徳永 北柿
初暦(はつごよみ)【新暦 暦開き 伊勢暦 花暦 柱暦 行事暦】
   
四季の花みな美しき初暦       佐久間 道子
   牛小屋の壁にもかけし初暦      大隈 米陽
初刷(はつずり)【刷初】
   
初刷の色鮮かに薩摩鶏        山元 秀女
   初刷の包みベルトに戴り始め     佐藤 蜻蛉
初竈(はつかまど)【焚初 炊ぎ初 若飯】
   
禅寺のみがきあげたる初竈      安藤 尚子
   集ひ焚く初炉の榾の梅櫻       長田 八重
大服(おおぶく)【大福 御福茶 福茶】
   
合掌をしてお福茶をいただきぬ    宮本 静代
年酒(ねんしゅ)【年始酒 年酒祝う】
   
坑夫たる父を誇りに年酒酌む     森山 抱石
   箸置に金の折鶴年酒酌む       赤羽 岳王
雑煮(ぞうに)【味噌雑煮 雑煮餅 雑煮膳 雑煮祝う 雑煮椀 雑煮箸 雑煮腹】
   
長病の母帰りきし雑煮かな      吉田 忍
   どん底の暮しのときの雑煮椀     河崎 初夫
太箸(ふとばし)【柳箸 箸紙 祝箸 孕み箸 腹太箸 雑煮箸 餅箸 箸包】
   
太箸を添へて一椀奉る        五十嵐 象円
   橿原の宮の太箸今年又        谷村 喜美子
食積(くいつみ)【重詰 組重 重詰料理 食継ぎ お手掛 お取初め】
   
食積の美しければためらひぬ     佐々 波二
ごまめ(ごまめ)【五万米 田作 小殿原】
   
集ひ来し子孫と祝ふ柿ごまめ     堀 勇夫
数の子(かずのこ)【かどのこ 塩数の子】
   
数の子をかんで生涯二人かな     刈谷 次郎丸
切山椒(きりざんしょう)
門松(かどまつ)【松飾 竹飾 門の松 飾松 門木 俵松 立松】
   
挿し並べ雪に門松商へる       星 芹水
   苗代田に松飾りして農に生く     江藤 睦子
飾(かざり)【お飾 注連飾 輪飾 飾海老】
   
さゝやかな注連をかざりて旅に出る  山内 二三子
   注連飾る古き一軒吾が生家      平野 六角牛
飾臼(かざりうす)【臼飾る】
   
開拓の名残りの臼も飾りけり     栗原 義人堂
   古臼の天地を洗ひ飾りけり      松浦 沙風郎
鏡餅(かがみもち)【餅鏡 御鏡 具足餅】
   
種籾の俵の上の鏡餅         蒲原 ひろし
   美しの宮は姫神鏡餅         石崎 晋象
蓬莱(ほうらい)【掛蓬莱 蓬莱師 蓬莱盆 包蓬莱】
   
蓬莱の芋銭の一書掛け句会      佐藤 欽子
初化粧(はつげしょう)【初鏡】
   
美しく老いんと思ふ初化粧      大橋 もと女
   飼猫に見つめられおり初化粧     指中 恒夫
初諷経(はつふぎん)
   雪つのる戦場墓や初諷経       田中 起美恵
   老の声少し張りあげ初諷経      千葉 大行
福藁(ふくわら)【福藁敷く ふくさ藁】
春着(はるぎ)【春箸 春衣 春小袖 正月小袖 春服 初重ね 初衣裳】
   
春著の娘ふくら雀と云ふ帯を     矢津 羨魚
   野の道を父より高き春著の娘     高井 邦子
手毬(てまり)【手毬つき 手毬唄】
   
国分寺址に転り初手毬        村中 美代
   顔よりも大きな手毬さしあげて    宮崎 すみ子
独楽(こま)
   勝ち独楽のまだまだ競ふ力あり    冨所 冬女
   舞ひ澄みて独楽一色になりにけり   上島 としえ
追羽子(おいばね)【遣羽根 羽子 羽子つき 懸羽子 揚羽子 逸羽子 羽子板】
   
東山静かに羽子の舞ひ落ちぬ     高浜 虚子
   小説を立てならべたる上に羽子    高野 素十
福引(ふくびき)【宝引 宝くじ】
歌留多(かるた)【歌がるた 花がるた いろはがるた トランプ】
   
初釜の座を改めて歌留多とる     宇野 氷露子
   しのぶ恋こがるる恋や歌留多よむ   杉山 喜代子
双六(すごろく)【絵双六 十六むさし 紙双六 道中双六】
万歳(まんざい)【才蔵 千秋万歳 万歳楽 三河万歳 尾張万歳 万歳大夫】
   
万才の泊るならはし大藁家      大隈 米陽
   万歳や岩間は古き宿場町       井上 史葉
猿廻し(さるまわし)【猿引 猿曳 猿舞師 舞猿 大夫猿】
   
猿曳に小さき人輪戎橋        山田 静雄
   猿曳の猿にころがる蜜柑かな     金子 九九
獅子舞(ししまい)【獅子頭 太神楽 角兵衛獅子 越後獅子】
   
獅子舞にぞろぞろついて村の子等   竹田 佳女
   獅子舞の脚の歩いて巷まで      甲斐 つる子
傀儡師(かいらいし)【くぐつ くぐつ廻し くぐつ師 でく廻し 夷廻し 傀儡女】
   
傀儡の首の折れたる後向き      三浦 まさゑ
   傀儡師片手使ひの十二分       村中 美代
笑初(わらいぞめ)【初笑 初笑顔 初えくぼ】
   
ちゝはゝの顔を覚えて初笑ひ     永松 西瓜
   手術せし腹にひびきぬ初笑      浅井 八郎
泣初(なきぞめ)【初泣】
   
力強く混血の孫泣初め        吉川 耕花
   泣初の子が笑ひゐるテレビかな    原田 耕二
掃初(はきぞめ)【初掃除 初箒 拭始】
   
掃初や島々見ゆる窓を明け      松尾 みち子
   掃初の一人のくらし始まりし     中澤 なみ子
書初(かきぞめ)【筆始 試筆 吉書 初硯 試毫 試簡 試免 試頴 試春】
   
新しき穂先とゝのへ筆始め      森山 治子
   文鎮を置けば鎮まり筆始       倉田 紘文
読初(よみぞめ)【読書初 初草子】
   
一事をばはげむべしとぞ読み始む   矢津 羨魚
   謹みて虚子の俳話を読始       長谷田 義人
仕事始(しごとはじめ)【仕事初 事務始 初仕事 鞴始 斧始 稿始】
   
海女の村仕事始めの畔を焼く     森山 治子
   父を師と敬ひ仕事始かな       長谷川 芳子
山始(やまはじめ)【初山 山入る 初登 初入踏 山譽め 二日山】
   
第一樹東に倒し山始         穴井 研石
   初山の神に斎きて石を切る      児玉 菊比呂
鍬始(くわはじめ)【鍬初 働始 農始 田植正月 作初 鋤初 堀初 初田打 農立】
   
王子趾にも一札や鍬初        坂東 紀仙
   女手の一畝ばかり鍬始        渋谷 まさゑ
織初(おりぞめ)【機始 初機 機場始 機屋始】
   
一年の計を心に織初め        松本 ます枝
   織初や明るき色を縦糸に       篠原 としを
縫初(ぬいぞめ)【縫始 初針 針起し 裁初】
   
縫初の糸のもつるゝこともなく    三宅 静枝
   縫初の赤き糸切る糸きり歯      岡本 美恵子
初商(はつあきない)【商始 商初 初糶】
   
やゝ固く初商の帯を結ひ       井上 たか女
   指二本指三本や初糶りす       上甲 明石
売初(うりぞめ)【初売 初売出】
   
巽向く店の明るき売始        本田 空也
   初売の軒に繭玉城下町        真柄 嘉子
買初(かいぞめ)【初買】
   
買初の清水坂のとある店       上田 はる
   買初に連れだちて榾負女たち     井上 史葉
初荷(はつに)【初荷馬 飾馬 初荷船 初荷橇 初荷駅】
   
市場まで父もつき行く初荷かな    森 竜南
   宮前の花屋に着きし初荷かな     山本 幸代
初湯(はつゆ)【初風呂】
   
坑夫等の声大いなる初湯かな     牛島 清治
   竹の榾一節はぜし初湯かな      三宮 美津子
梳き初(すきぞめ)
   梳き初めの櫛を飾りて美容室     中野 貴美子
   予後の髪時かけて梳き初めにけり   吉村 敏子
結い初(ゆいぞめ)【初結】
   
結ひ初の合せ鏡は亡母のもの     中村 千恵子
   元結の白のめでたし結初め      五十嵐 象円
初髪(はつがみ)【年の髪 初島田】
   
初髪の女のことを書く日記      阿部 よし松
   初髪の合せ鏡を右左         中畠 ふじ子
初鏡(はつかがみ)【初化粧】
   
初鏡思ひがけなき色も似合ひ     松尾 美子
   髪豊かなるも母似や初鏡       浅田 伊賀子
稽古始(けいこはじめ)【初稽古】
   
つれだって稽古初めの母娘かな    石川 梨代
   島村の島文楽の初稽古        増田 雅久
謡初(うたいぞめ)【松謡】
   
坂の上の田村麿をぞ謡初       佐藤 峻峰
   四海波静かに老の謡初        安井 房子
弾初(ひきぞめ)【初弾 琴始】
   
弾初や十三弦のゆるみなき      大西 正子
   弾初のショパンの曲の湧くごとし   本多 勝彦
舞初(まいぞめ)【仕事初 能始】
   
指染めて恋し恋しと初舞へる     屋舗 信子
   幕に立つシテに切火や能始      金井 綺羅
初句会(はつくかい)【新年句会 初運座 句会始 運座始 初披講】
   
御幸橋渡りて来たる初句会      渡辺 しづ
   角櫓明るく見ゆる初句会       原山 英士
初夢(はつゆめ)【宝船 初枕 貘枕 初寝覚】
   
初夢や母と渡りし長き橋       小野 鶴子
   初夢の覚むれば娘等のみな遠し    三戸 良子
福沸(ふくわかし)【福鍋】
   
夫婦杉拝み来てより福沸       安部 てい
   たきつけの火の昂りや福沸      坂口 かぶん
御用始(ごようはじめ)【事務始 初事務】
   
葉牡丹を大玄関に用始め       小川 真砂二
   職辞して吾には御用始なく      佐々木 鳴子
帳綴(ちょうとじ)【帳書 帳始 新通 御帳綴 帳祝】
   
沈みたる舟の帳尻御帳綴       串上 青蓑
   今もあるお顧客帳や帳始       松浦 沙風郎
女礼者(おんなれいじゃ)【女賀客 女礼】
騎初(のりぞめ)【初騎 騎馬始 馬場始 騎始】
   
移住地の会館までの騎始       樋口 玄海児
   騎初や夫婦乗りして里帰り      石川 かほる
弓始(ゆみはじめ)【初弓 射場始 的始 弓矢始】
   
当り矢に幣の上りし弓始       大野 林窓
   甲矢外れ乙矢あたりし弓始      松沢 みさ女
寝正月(ねしょうがつ)
   ははそはの母にすすむる寝正月    高野 素十
   牛の糧やるよりほかは寝正月     羽野 蕗村
餅花(もちばな)【繭玉 餅の花 餅手毬 花餠 花飾 餅穂 餅木 稲穂の餅】
   
餅花に十日過ぎなる客多し      笹原 耕春
   繭玉の相ゆれてゐて相うたず     村上 立石
松納(まつおさめ)【松取る 門松取る 松上り 鳥総松 松送り 松倒し 松下し】
   
妻産気づきて俄かの松納       井上 史葉
   松とれし公民館に本返す       稗田 富貴子
飾納(かざりおさめ)【飾取る 注連飾取る 注連取る 飾卸し お飾こわし】
初釜(はつがま)【初茶湯 点初 釜始 手前始 茶湯始】
   
初釜へおろしぞめなる草履かな    近藤 紀代女
   初釜の炭を洗ひし日和かな      飯田 法子

動物

初鶏(はつとり)
   歩を止めて初鶏に声合せみる     江藤 ひで
   初鶏に天地大きく明け初めし     熊谷 秋月
初鴉(はつがらす)
   ばらばらに飛んで向こふへ初鴉    高野 素十
   飛ぶといふこと美しき初鴉      倉田 紘文
初雀(はつすずめ)
   炭坑の煤を粧ひ初雀         有働 清一郎
   初雀そこまで我を近づくる      長野 豊子
嫁ヶ君(よめがきみ)
   鉄の木の梁の太さに嫁ヶ君      栗原 義人堂

植物

歯朶(しだ)【歯朶飾る 山草 穂長 裏白 諸向】
   
岩窟の歯朶天井のあふらるゝ     井手 芳子
   枯るゝもの枯れ神山の歯朶青し    長谷川 より子
楪(ゆずりは)【交譲葉 杠 親子草】
   
神前の楪青きめでたさよ       吉田 隆子
   楪の互ひに知らぬ過去のあり     溝口 博子
野老(ところ)
穂俵(ほだわら)【ほんだはら たはらも なのりそ 神馬藻】
   
波ゆるむとき穂俵の揺れ戻り     村山 志水
   ほんだはらばかり打ち上げ浜の冬   安藤 雅子
福寿草(ふくじゅそう)【元日草】
   
美しき老にありたし福寿草      串上 青蓑
   葉の伸びて花の了りし福寿草     川原 道程
若菜(わかな)【若菜摘 初若菜 若菜の日 若菜野 若菜舟】
   
寺の鐘教会の鐘若菜摘む       山本 二千
   大由布の若菜野つゞく湯の煙     宿理 菊香